世界に先行するMaaSモデルを作る

特別対談02 藤堂高明x鈴木寛
新型コロナウイルスの感染拡大は社会のあり方を大きく変えようとしています。コロナと共生する「with コロナ」時代において、日本はどのように地方創生に取り組んでいくべきなのでしょうか。この連載では4回に渡って東京大学・慶應義塾大学の鈴木寛教授とファーストグループの藤堂高明社長が対談した様子をお伝えします。第2回は地域活性化のために、様々なステークホルダーとどのように連携していくべきかについて議論しました。

世界に先行するMaaSモデルを作る

藤堂高明

プロフィール:藤堂高明氏(とうどう・たかあき)

奈良県出身。大学卒業後大手通信会社に就職し東京で勤務。2003年3月に自動車整備業界へと転職。2007年MBO(マネージメントバイアウト)により代表取締役に就任。廃業寸前だった事業を様々な取組みで再建。そのノウハウを元に 大阪や東京・埼玉・千葉などでM&Aや新規出店により事業を拡大し14年で年商30倍を実現。現在東京本社にてオートアフターマーケット向けITシステム(カーライフAI)を開発中。地方の社会課題を解決するためのモビリティサービスを提供する予定である。6月一般社団法人地域移動課題解決推進協議会を設立し、代表理事に就任。

ファーストグループの藤堂高明社長(以下、藤堂):自動車整備工場は、クルマ産業の裾野で国民の生命と財産を守るという使命のもと仕事をしています。具体的には2年に1回の車検によって、車が安全性を保っているかどうかを国に代わってチェックしているわけです。この車検制度を支えるために、全国津々浦々に9万もの自動車整備工場が存在しています。市場規模も5.5兆円ほどあり、バブルや大不況などと関係なく一定の水準を保ってきた業界です。

少子高齢化に加えて仕事内容がきつかったり汚れたりすることもあるので、後継者がおらず廃業・倒産が増えてきていることが課題です。私は色々なご縁で事業を継ぐことになりましたが、自分たちの役割や使命をもう一度再定義して業界を盛り上げていきたいと考えています。我々も昔はモータリゼーションの拡大とともに日本の経済を支えているという自負がありました。これからの時代においても地域住民に「この人たちがいたから自分たちは安全に移動できるんだ」と思ってもらえるようになりたいと考えています。

それをデジタルで実現していこうとしても、地方にはなかなか人材がいません。今回の新型コロナウィルスの感染拡大をきっかけに、いろいろな人々がオンライン上で出会い、集まって開発するような動きが促進されてくると、地方と都市の格差がなくなると思っています。

プロフィール:鈴木寛氏(すずき・かん)

東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長、日本サッカー協会理事、Teach for All Global Board Memberなど
1986年 東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。資源エネルギー庁、国土庁、産業政策局、生活産業局、シドニー大学、山口県庁、機械情報産業局などで勤務。慶應義塾大学SFC助教授を経て2001年参議院議員初当選(東京都)。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化、科学技術イノベーション、IT政策を中心に活動。元・文部科学副大臣、前・文部科学大臣補佐官。

鈴木寛

慶應義塾大学の鈴木寛教授(以下、鈴木):私は大学でソーシャルイノベーション(社会革新)を研究したり、学生と一緒に実践したりしています。その観点からすると、自動車整備業というのはものすごく興味深いです。というのも、今後、車に乗る人が減っていくので市場は縮小し、マクロトレンドでは相当しんどいですよね。今までと同じことをしていたらただ沈んでいくだけですが、逆にこの9万軒という全国のネットワークを活かすと新しい業態を作っていくだけのポテンシャルもあります。

自動車整備業の中でものすごい勝ち組ができる一方で、2〜3割は相当大変になるでしょう。業界内の格差がものすごくつくというのがポイントです。私は自動車整備工場は7万カ所ぐらいまで減る一方で、残った事業所の売り上げは1.5倍になるとみています。頑張る事業所は売り上げが2〜4倍になるかもしれない。こうした変化が皆さんが想像しているよりも速いスピードで来ます。この10年ぐらいで変化すると予測していたものが5年ぐらいで起こるかもしれません。

そうした変化の中で一企業やひとつの地域では何もできないので、地域内の近接した他業種との連携が大事になります。また、地域を超えて繋がることによって色々な開発や研究もできます。

藤堂:日々、地域住民との接点を持ってクルマの安心と安全を守っている中で、自動車整備工場にはさまざまな情報が入ってきます。例えば、今度「息子が免許取った」「娘が結婚するから車を買ってあげなきゃ」「最近病院に通っているが、そろそろ自分で運転するのが大変だ」などといった情報です。現状ではこういった情報が修理工場の親父さんやお母さんの頭の中だけで留まっていて、活かされていません。ファーストグループ はそういった情報を収集、管理、活用しようと取り組んできました。「車を売る」「修理する」ことから地域住民の移動手段を提供することへ、我々の役割が変わっていく必要があると思っています。

我々の業界は非常にアナログなので、こうした世界観を実現していくためにはデジタルのイノベーションが必要となります。また、自動車整備工場は地域の色々な異業種の方とも連携しており、地域の商工会、経済団体、青年会議所などとの関係をもっと生かして地域に役立つことができるのではないかと考えています。

鈴木:データというものは繋げないと意味がありません。まず、整備工場の親父さん、お母さんの情報を見えるようにしてつなげていく。それによって地域に住んでいる方のお困りごとはすべて整備工場がワンストップで解決していく。そんな拠点になり得ると思います。これは机の上で考えていても限界があるのでやりながら直し、考え、試していく必要があるでしょう。今、都会の若者の中には地方に関心を持っている人がたくさんいます。やる気があって賢い彼らと地域の人をつなぐようなネットワークも作ってほしいですね。

藤堂:デジタルの進化によって、能力の高い優秀な方々はオンライン上で仕事を済ませて、オフラインでは地域の方々と交流を持ち、地域の課題に取り組むようになります。彼らはさまざまな知見を持って提案ができると思うので地方にとっては刺激になるでしょう。

鈴木:日本における自動車整備の専門学校や高専は技術や人材を養成する能力がものすごく高いですよね。アジアへ行くと、日本の自動車整備の技術、教育をトランスファーしてほしいという声がものすごくある。そういう意味では、まずは日本国内でベストプラクティスを作った後、インドネシア・中国・東南アジア・インドなどに展開できるでしょう。新興国ではマイクロモビリティとモータリゼーション、新幹線、ドローンが一挙に普及していきます。つまり、何もない白地のところでやれるので、今まで投資したものをどう回収するかを考える必要がない。だからこそ、新興国での事業はとても可能性があると言えます。

藤堂高明

藤堂:日本は戦後、世界中に日本車を普及させてきたため、ハードのインフラが世界に行き渡っています。日本車は壊れないという認識も持たれている。ところが車というハードに載せるソフト、つまり車を活用してどのように社会を良くしていくかというところはまだまだ弱い。だからこそ、人口減少や少子高齢化が急速に進む日本で持続可能な移動サービスを検証していきます。

将来は日本車とともに、日本発の移動型サービスを世界に普及させたいと思っています。その時に、顧客との対話を重視して壊れる前に予防整備し、車の資産価値を保つという日本独自の発想や概念をプラットフォームとともに世界に広げていきたい。いずれはアジアの地域でも人口がピークアウトしてきます。その際に日本は先行して、社会実験をした成功モデルを輸出することにつながるのではと考えています。

鈴木寛

鈴木:特にアジアは中国を筆頭に、日本以上のペースで高齢化が進みます。シンガポール政府の方も高齢化が心配で仕方ないと言います。日本の場合は高齢者が免許を返納するようになるでしょうが、中国はそもそも免許ない人がいきなり高齢化するというステージを迎える。その時にまさに買い物難民などが問題になり、高齢者のためのきめこまやかな移動サービスが必要になります。今言われているMaaS(次世代移動サービス)よりも広い概念で地域の高齢者目線に立ったサービスを作れたら世界スタンダードになると思っています。

藤堂:一方で、日本では規制が足かせになって新しいことに取り組むのが難しいという問題もあります。

鈴木:現在は全国一律の規制となっていることが一因です。都会では引き続き必要な規制かもしれないが、地方では過剰規制になっているようなものもあるでしょう。政府もそういう点に気がつき始めており、「地方で一部規制を解除してみよう」という考え方になりつつあります。制度も出来てきていますから、新しい社会実験は地方の方が始めやすいんです。自動車整備をやっている名士は市長や市議会議員などを巻き込みやすいですよね。規制の話は地元の行政とどれだけ綿密に相談できるかがカギとなるので、これは地方のメリットになるでしょう。

動画もご視聴ください。

*対談内容はインタビュー形式としてまとめるため、表現を追記しています。一部、動画と異なる場合がございます。
*本対談は5月18日に開催いたしました。十分な換気を実施し、撮影スタッフを含めマスクを着用するなど万全の対策を講じました。

写真撮影:北山宏一
動画撮影:DreamMovie