自動車整備工場が各種サービスのハブに

特別対談03 藤堂高明x鈴木寛
新型コロナウイルスの感染拡大は社会のあり方を大きく変えようとしています。「with コロナ」時代において、日本はどのように地方創生に取り組んでいくべきでしょうか。この連載では4回にわたり、東京大学と慶應義塾大学の教授で社会創発塾塾長などを務める鈴木寛氏と地域移動課題解決推進協議会代表理事でありファーストグループ社長の藤堂高明氏が対談した様子をお伝えします。第3回目は新しいモビリティーやサービスとの連携について語り合いました。

自動車整備工場が各種サービスのハブに

プロフィール:鈴木寛氏(すずき・かん)

東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長、日本サッカー協会理事、Teach for All Global Board Memberなど
1986年 東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。資源エネルギー庁、国土庁、産業政策局、生活産業局、シドニー大学、山口県庁、機械情報産業局などで勤務。慶應義塾大学SFC助教授を経て2001年参議院議員初当選(東京都)。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化、科学技術イノベーション、IT政策を中心に活動。元・文部科学副大臣、前・文部科学大臣補佐官。

鈴木寛

慶應義塾大学の鈴木寛教授(以下、鈴木):今回は2人の若者を紹介させてください。私のゼミに所属しながらmymerit(https://ema.run/)でCEOをしている中根泰希くんと、ゼミの卒業生でDADA(https://dadainc.co.jp/)という会社のCEOをしている青木大和くんです。中根くんはmymeritという学生ベンチャーで、坂道でも利用できる電動キックボードを普及させようと頑張っています。青木くんは中古バスを改造して寝泊りできる「バスハウス」を、学生の時から運営しています。彼らの企業と自動車整備工場はコラボレーションできるのではと思っています。

mymeritの中根泰希CEO(以下、中根):このキックボードは原動機付き自転車の保安基準に適応し、公道を走行することができます。

藤堂高明

プロフィール:藤堂高明氏(とうどう・たかあき)

奈良県出身。大学卒業後大手通信会社に就職し東京で勤務。2003年3月に自動車整備業界へと転職。2007年MBO(マネージメントバイアウト)により代表取締役に就任。廃業寸前だった事業を様々な取組みで再建。そのノウハウを元に 大阪や東京・埼玉・千葉などでM&Aや新規出店により事業を拡大し14年で年商30倍を実現。現在東京本社にてオートアフターマーケット向けITシステム(カーライフAI)を開発中。地方の社会課題を解決するためのモビリティサービスを提供する予定である。6月一般社団法人地域移動課題解決推進協議会を設立し、代表理事に就任。

ファーストグループの藤堂高明社長(以下、藤堂):我々自動車整備工場の業界は5km圏内で商売していることが多いです。修理をご依頼頂くと、2人1組でお客様のご自宅まで車を引き取り、完了後はご自宅へ納車することが多々あります。このやり取りを効率化するために、引き取りではなく来店して頂くことを推進していますが、今度はお客様にご不便をかけてしまいます。電動キックボードのような移動手段があると、我々の業務も効率化できそうです。

中根:このキックボードは折りたたんでしまえば自転車の半分のサイズになり、車のトランクに二台ほど積めるので活用できそうですね。

藤堂:我々はお客様と家族ぐるみの付き合いをしていますので、お父さんやお母さんは車に乗ってもらい、小中学生のお子さんには自転車の代わりにキックボードを活用してもらうことも考えられます。他にも旅行者に貸し出すなど、色々な用途が広がりますね。

鈴木:ラストワンマイル、ラストワンメーターを埋めるためのメニューの1つとして、電動キックボードを足すことができると思います。自転車だと坂道の移動が大変ですし、電動自転車は大きいから持ち運びしづらい。一方でこのキックボードは折りたためるので、色々な意味でバリエーションが増えるでしょう。

藤堂:電動キックボードを普及させる際には安全な乗り方や事故防止のための啓もう活動が必要になります。我々は交通安全のための活動もやっていますので、その延長線上でこのキックボードの普及のお手伝いもできます。

鈴木:9万カ所ある自動車整備工場でキックボードを充電できればありがたいですね。

中根:キックボードのシェアリングは海外で流行っていますが、日本ではどのように置き場所や整備する人を配置するのかが課題となっています。今後は地域の人たちと上手く協力してシステムを作っていくことが必要になると思います。

藤堂:地域のことが分からないと、設置しても使われないまま実験が終了してしまうケースも多いと思います。我々はどういったところにニーズがあるか、使いたい人の情報を持っているのでぜひ普及の手伝いをしていきたいですね。ちなみに中根さんはおいくつですか。

中根:24歳です。

藤堂:素晴らしい。日本のモビリティの未来は明るいですよ。24歳の方が起業して移動の問題を解決しようとしているわけですから。

鈴木:このキックボードは規制の問題が立ちはだかっていました。過去2年間ほどをかけて中根くんが国会議員や省庁の幹部と丁々発止でやり合って、何とか法的な問題はクリアすることができました。その後、山口県萩市で日本初の公道で実証実験をしています。青木くんが手がける「バスハウス」に関連したところでいうと、今、地方に宿泊施設を新しく建るのは非常に難しいと思います。

藤堂高明

藤堂:新型コロナウイルス感染拡大の影響で今後、日本人も海外旅行に行きづらくなりますね。これからは日本の知られざる名所などを探訪する流れができると思っています。さらに「奈良県民が奈良県内で旅行する」といった狭い地域内でのツーリズムも出てくるでしょう。奈良はおよそ8割が森林で、その奥には世界遺産などもありますが、県内在住の私ですら行ったことがありません。こういった地元を発見するツーリズムが絶対盛り上がるので、その時にモーターホームつまり、移動型のホテルを、吉野にある道の駅などに設置させてもらうこともできるでしょう。ファーストグループに限れば奈良県内にいる4万人のお客様に観光+宿泊をリーズナブルに提供できればすごく面白いと思います。「密を避ける」という意味でも、自分だけのスペースで寝泊りできるのは非常に良いと思います。

DADAの青木大和CEO(以下、青木):私たちのバスハウスは2〜4人、小さいお子さん連れなら家族で泊まれます。四季折々、場所を変えて移動することができるのが特徴です。既存のホテルはずっと同じ場所で運営しお客様をお待ちしていますが、バスハウスはある時は海沿い、ある時は山上で星空を見るなど、ユーザーのニーズに合わせて移動できるところに価値があります。

藤堂:ラスト数百メートルの移動をサポートすることに加え、移動する楽しみや喜びをどのようにデザインするかが重要になりますね。顧客視点のサービスとして、このような移動型の宿泊サービスは非常に有効だと思っています。

鈴木:単に便利にするだけではなくて、楽しくしないとダメですね。旅は人の絆を深めたり、いろいろな学びや出来事があります。そういう意味でもこのサービスは素晴らしいと思います。

藤堂:全国9万カ所の自動車整備工場のおっちゃんたちは非常に無骨で職人気質な人が多いです。移動型の宿泊サービスのような幸せや感動を提供できる色気のあるものと組み合わせることによって、我々の業界の社会的な地位も上がっていくと思います。

青木:民泊では「Airbnb」がアメリカからスタートして世界を席巻しました。Airbnbは小規模な事業者が地元で2〜3軒の運営を始め、そこが高評価を得てスーパーホストになり、さらにそういうオーナーが世界中に広がっていきました。私たちも資本力の強い人にバスハウスを買ってもらうのではなく、むしろ地元に密着した事業者に地産地消で運営してもらいたいと考えています。彼らがマップなどを作り地域の名所などをレコメンドする。地域の事業者にとっては新しい事業の柱にもなるし、かつ地域の新しい動線を作ることもできる。そういう三方良しの構造を作っていきたいと思っています。

藤堂:自動車整備工場は団塊世代を顧客に抱えています。こういった方々とクラウドファンディングで資金を集め、全国各地でバスハウスをシェアリングで運用するようなモデルも一緒にやっていきたいですね。そうすれば自動車整備工場が宿泊事業のファンドマネージャーになるかもしれないと思います。

青木:自動車整備工場の人がこういうサービスを扱うことによって地域のハブになり、色々な受け皿となれば、産業としての伸び代や可能性があると思います。

藤堂:ちなみに青木さんはおいくつですか。

青木:26歳です。

藤堂:素晴らしい。私は引退してもいいんじゃないかと思います(笑)。彼らがこの国のモビリティや世界を変えてくれますね。新しいアイデアを活用して全国各地の自動車整備工場、地域の皆さんと新しい移動の体験や喜びを創出したいと思います。我々は高齢化した町で地元の大学生や住民、そして高齢者と一緒にイノベーションを起こそうとしています。そこに都心部からより面白い人が参加し、さらに活性化できたらと考えています。

鈴木寛

鈴木:自動車整備工場の技術やネットワークはもちろん大事なインフラです。さらに今、単に自動車整備ではなくて人々の移動ライフを楽しく、豊かにするような、21、22世紀につながる大事な産業に生まれ変わるチャンスが来ています。地方から先に世の中を変えていくタイミングです。

私のゼミには楽しい人生のためにやれることは何でもやろうという学生が参加しています。私自身もとりあえずやってみて、自分たちがまず楽しむ、そうすれば思い切って他の人に薦められると考えています。私は一級船舶免許を持っていてヨットマンなんです。馬とかヨットとか、バスハウス、電動キックボード、全てのモビリティーを活用した新しいライフシーンを作っていけるのではないでしょうか。

中根:ちなみにこのスクーターは今、個人に対して販売していません。原動機付自転車として適応していますが、現状では原付バイクの運転免許が必要になります。高校生も免許を取らないといけないし、高齢者が免許返納すると乗れないわけです。軽車両の位置づけを目指して、今後も規制を徐々に緩和していきたいと考えています。現在は自治体と協力し、きちんと制限をかけた上で丁寧に安全性を確認しながら進めています。

鈴木:だから地元に事業者がいるとやりやすいですね。安全確認とか、安全走行の担保を自動車整備工場に担ってもらえれば普及するでしょう。

藤堂:我々は利用するお客様が想定できますし、そのお客様に寄り添いサポートしながら、安全性を啓蒙して社会的な需要を高めて普及させるようなお手伝いができると思います。お客様への定期的な接触やメンテナンスは我々が得意としているところです。キックボードは車に比べれば部品点数も少なくて、整備も容易でしょう。部品の交換も含めて、パーツの流通でもお手伝いできます。

バスハウスについても全国に修理や貸し出しネットワークを築くことができます。CAMPの全国のメンバーが貸し出しやメンテナンスで提携できるように、まずは奈良で実験していきたいと思います。

(Part4へ続く)

動画もご視聴ください。

*対談内容はインタビュー形式としてまとめるため、表現を追記しています。一部、動画と異なる場合がございます。
*本対談は5月18日に開催いたしました。十分な換気を実施し、撮影スタッフを含めマスクを着用するなど万全の対策を講じました。

写真撮影:北山宏一
動画撮影:DreamMovie