日本独自のMaaSで地域を支える

特別対談04 藤堂高明x鈴木寛
新型コロナウイルスの感染拡大は社会のあり方を大きく変えようとしています。
「with コロナ」時代において、日本はどのように地方創生に取り組んでいくべきでしょうか。
この連載では4回にわたり、東京大学と慶應義塾大学の教授で社会創発塾塾長などを務める鈴木寛氏と地域移動課題解決推進協議会代表理事でありファーストグループ社長の藤堂高明氏が対談した様子をお伝えします。
最終回は日本におけるMaaS(次世代移動サービス)のあり方について意見を交わしました。

日本独自のMaaSで地域を支える

プロフィール:藤堂高明氏(とうどう・たかあき):写真左から1番目

奈良県出身。大学卒業後大手通信会社に就職し東京で勤務。2003年3月に自動車整備業界へと転職。2007年MBO(マネージメントバイアウト)により代表取締役に就任。廃業寸前だった事業を様々な取組みで再建。そのノウハウを元に 大阪や東京・埼玉・千葉などでM&Aや新規出店により事業を拡大し14年で年商30倍を実現。現在東京本社にてオートアフターマーケット向けITシステム(カーライフAI)を開発中。地方の社会課題を解決するためのモビリティサービスを提供する予定である。6月一般社団法人地域移動課題解決推進協議会を設立し、代表理事に就任。

プロフィール:鈴木寛氏(すずき・かん):写真右から1番目

東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長、日本サッカー協会理事、Teach for All Global Board Memberなど
1986年 東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。資源エネルギー庁、国土庁、産業政策局、生活産業局、シドニー大学、山口県庁、機械情報産業局などで勤務。慶應義塾大学SFC助教授を経て2001年参議院議員初当選(東京都)。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化、科学技術イノベーション、IT政策を中心に活動。元・文部科学副大臣、前・文部科学大臣補佐官。

ファーストグループの藤堂高明社長(以下、藤堂):MaaSについては概念が、ひとり歩きしているような状態です。そもそもMaaSという言葉が生まれたフィンランドでは「公共交通機関を活用して、持続可能な社会を作ろう」という概念で用いられています。ただ、日本とは交通に関する環境が大きく異なります。日本では交通が発達しているのは一部の都市だけです。地方は車がないと移動ができません。都心部は1世帯あたりの自動車の保有率は1台を切りますが、地方の1世帯あたりの保有率は2に近いところもあります。私がなぜそれを知っているかというと、世帯あたりの自動車保有率が高いところを狙って自動車整備工場を出店しているからです。

日本における「MaaS」はマイカーをいかに絡めるかが重要になります。東京を中心に都市部ではスタートアップ企業がカーシェアやライドシェアなど、様々なシェアリングサービスを立ち上げていますが、地方にはほとんど浸透していません。なぜかというと、地方においては自動車をシェアするという考え方がそもそもないからです。自動車は一人に一台、生きていくために必要なものなのでず。そもそも「人に貸す」「乗せる」という発想がない。地元でよき理解者を見つけてその企業と一緒に新しい世界を広げていく必要があると思っています。

一足飛びにやろうとしても上手くいかないでしょう。地方で生活のために車を使う方々にとって、車を維持したり、売ったり買ったりすることをスマートにする。これが第一段階です。その次に「免許を返納するなら車を地域に貸し出してその賃料を維持費に当てましょう」といったビジネスモデルを作っていきます。このモデルを作る際には移動の必要性や車を持っている人に関する情報を持っている人が核になるでしょう。我々のような自動車整備工場業界の人たちは、自動車にまつわる様々な情報を6千万台分も持っているのでこれを活用しない手はないと考えています。

話をまとめると、ヨーロッパのMaaSは「さまざまな経路や移動手段のデータをオンライン上に集めて、検索や予約、決済をできるようにする」というものです。一方で「飛行機×鉄道×車」というのが日本版のMaaSといえます。日本版のMaaSを作るためのレイヤーもヨーロッパとは全く違う考え方が必要になります。私が考えるMaaSはレベル5段階で構想していて、事業を進めています。

例えば鈴木先生が「奄美大島で漁村の方々と語らうんだ」と決めた瞬間に移動手段が設計されます。ヘリコプターとかクルーザーとか、最後はもしかすると漁村の軽トラックを使うかもしれません。最後のピースを埋めるマイカーのビッグデータはすごく重要で、これを押さえることで日本版MaaSができあがります。

慶應義塾大学の鈴木寛教授(以下、鈴木):鉄道は、コストと投資が莫大なので相当な需要が見込めるところでしか整備できません。そもそもローカル線を作ることはないと思います。そういう意味ではラストワンマイルを鉄道以外のモビリティでサポートしていくということになるでしょう。

藤堂:MaaSでは「地域の人を助けた時に何を対価にすればいいか」ということも考えています。

鈴木:藤堂社長のネットワークと我々の技術、さらに制度を組み合わせればコミュニティ通貨もできるでしょう。「病院に行く」「介護施設に行く」というようなニーズがあるので、モビリティをサポートしてもらうことは本当に助かります。こうした活動を広げていけば、公益資本主義という新しい経済が生まれる可能性があると思います。

藤堂:地方では高度成長期に建てられた家がどんどん空き家となりますが、所有者が貸し出さないとサービスは広がりません。地域通貨というのは、既存のインフラを誰かのために共有することによって価値を生み出すということだと思います。ライドシェアでも困った人を車に乗せることによって通貨が生まれるわけですから、地方創生の起爆剤となったり地域のエコシステムづくりにつながったりするのではないかと思います。

鈴木:こうした活動は追加の投資がいらないんですよね。車に1人乗るのも4人乗るのもコストは同じだけど、同乗する3人は滅茶苦茶ありがたいわけです。地方では今後、新しいお金のフローを生み出すのが難しくなる中で、今あるアセットの稼働率や回転率を上げてそこからサービスを生み出す。そのサービスをベースにもう一度経済を作り直す、というのが新しい考え方です。

MaaSにはもう1つ、面白い点があります。地方は個人がそれぞれ移動手段を持つ、パーソナルモビリティですね。一方で、都会にはものすごく大きな交通機関があります。この間をいかにつなぐかが大事になってくるでしょう。その時に地方にあるパーソナルなモビリティでコミュニティを作ることで、交通網をつないで公共交通としていく方が早いと思うのです。壮大な実験にもなるし、社会構造が変わるということだと思います。

藤堂:そのためには必ず規制の緩和や地域住民の参加が必要になります。そこでCAMP(カー・アライアンス・メンバー・プログラム)の特別版として、日本全国の自動車関連事業者による連携を強め、事業者プラットフォームを作っていきます。また、今後は地域住民の生活がそのサービスによってどう豊かになるのかを検証することも必要になります。そのために一般社団法人を設立して全国津々浦々にその支部を発足させ、地域が抱える課題を解決していきたいと考えています。例えばある町は観光で栄えていて、次のインバウンドに向けた新しいテクノロジー、サービスを導入したいと考えるかもしれない。そうした時に地域密着の社団法人が問題の解決に乗り出していきます。

6月に法人を発足させ、大勢のメンバーを募っていきます。目的は持続可能な社会づくりです。その活動を通して、合理的に効率よく、環境への影響を最小限にしながらマイカーを活用していく知恵を、日本という島国の中で作っていけると思います。堅苦しくなく、地ビールを作るようなつもりで、地域密着のMaaSをどんどん立ち上げていきます。ぜひ若い方も加わって頂き、知見と柔らかい頭を発揮していただきたいですね。

鈴木:環境問題に加えて重要な問題となっているのが貧富の格差ですよね。中でも大きいのが「移動力の格差」です。この移動力の格差をどう埋めることられるかが、社会問題に大きな影響を及ぼしていくと思います。

藤堂:それに加えて、エネルギー問題はもっと根本的な貧富の格差や人々が殺し合う原因ともなっています。わたしはこの問題も解決したいと思っています。地域通貨の金持ちは地域にものすごく貢献した人ということになるので、通貨としてのあるべき姿だと思うし、ぜひ実現に向けて私も協力していきたいです。

鈴木:世界では1000〜2000の地域通貨を発行していますが、日本はかなり遅れています。ぜひチャレンジしていきたいですね。エネルギー問題についても、再生可能エネルギーを自動車で蓄電することが広がるでしょう。そうした時に蓄電と配電をどうするか。自動車整備工場が蓄電機能を担えれば、地産地消で電気を作り消費することが可能となり大事なインフラとなるでしょう。

藤堂:ITプラットフォームの活用や電気に関する知識を武装することによって、地域密着の自動車整備工場はまだまだ将来性やのびしろがあると考えています。

動画もご視聴ください。

*対談内容はインタビュー形式としてまとめるため、表現を追記しています。一部、動画と異なる場合がございます。
*本対談は5月18日に開催いたしました。十分な換気を実施し、撮影スタッフを含めマスクを着用するなど万全の対策を講じました。

写真撮影:北山宏一
動画撮影:DreamMovie